「ヤングケアラー」という言葉を、最近よく聞くようになりました。
「ヤングケアラー」とは、学校などに通いながら両親や祖父母の介護、きょうだいの世話をしている18才未満の子供のことです。
障害や病気のある家族に代わって料理や洗濯などの家事をしたり、家計を支えるために仕事をしているようなケースもこれに該当し、中には小学生もいるといいます。
まだ調査が始まったばかりで、実態の把握には至っていないようですが、ある調査によると、中高生のおよそ20人にひとりがヤングケアラーなのではないか?と言われています。
また、このような報道を受け、「かつて自分もヤングケアラーだった」という人も声を上げ始めました。知られていなかっただけで、こういう事実は以前からあったようなのです。
なぜ知られていなかったのか?
それは、
- 「親が家事をしない(できない)から、自分がやるしかない」
- 「家族の状況を他人に知られたくない」
- 「相談しても状況が変わるとは思えない」
などの理由により、本人からのSOSがなかったことに加え、たとえ“どうにかしたい”と思っていたとしても、相談する先も、今のようにSNSなどで発信するという手段もなかったからではないかと思われます。
最近になってその存在が明らかになり、今後さらなる調査が行われることと思いますが、調査と並行して“速やかな支援”を行っていかなければいけない問題だと思います。
ヤングケアラーと言われるような子供たちは、自ら「今の状況が異常だ」と気づきにくく、「助けて欲しい」と声をあげるという発想すらできないでいるかもしれないからです。
もしもこの文章を目にしたあなたが、「自分もそうかも?」と思ったら、後にあげる連絡先に相談してみてください。そして、似たような経験をもつ人の話しを聞いてみてください。
そうすることで、あなた自身のおかれた状況を客観的に判断することができ、この先どうしたらいいのかが見えてくるかもしれません。
親が家事をしない!押し付ける理由は?
親自身が病気であったり、仕事が多忙で家事や子供の世話をする時間が作れないなど、親が家事をしない・できない理由はさまざまだと思います。
その場合、きょうだいの中では長男・長女がその代わりをすることになるでしょう。
自分がやらなければ
“長男・長女は責任感が強い”とよく言われますが、生まれながらにそうだったわけではなく、やはりそのように育っていくのだと思います。
ヤングケアラーの場合も、
- “親が病気で家事や幼いきょうだいの世話ができない”
- “親が忙しく、朝早く出かけてしまい帰りが遅い”
それならば「自分がやるしかない」・・・
そうやって、責任を感じて自ら背負ってしまうのではないでしょうか?
それを「申し訳ない」と思ったり、感謝できる親であれば、子供は報われると思いますし、いつか、状況が改善したら家事労働から解放される可能性もあるでしょう。
しかしながら、そうではない場合もあります。
毒親・毒母と呼ばれる存在
自分が家事をできないわけではないけれど、幼い子供の世話ができないわけではないけれど、それでも子供にそれを押し付ける親...
いわゆる「毒親」、「毒母」と呼ばれる存在です。
毒親たちは、「家事が苦手」、「家事が嫌い」、はたまた「家族の世話をするのが嫌」などの理由で、本来自分がやるはずの家事・育児をわが子に押し付けます。
なぜそんなことができるのか?本当の理由は本人以外にはわからないことですが、“子供のものは自分のもの、自分の子供をどうしようが親の自由”というような、ゆがんだ認知があるのではないか?と言われています。
中には、自らも「毒母」に育てられ、自分が幼いころに親の代わりに家事をやってきたことで、「もう、家事はやりたくない」という人もいるようです。
親は家事がいっさいできない・苦手な理由は?
親が家事をできない理由はなんでしょう?
病気で家事ができない
体の病気以外にも、精神的な病で家事がまったくできないという場合があります。
仕事が忙しく、家事をする時間がない
朝早く出勤して夜遅くまで帰れないとか、夜勤がある職種である場合は、家事はもちろん、幼いきょうだいの世話(送り迎えなど)もできません。
家事が楽しいと思えない
たとえば、自分の親が「とても嫌そうに家事をしていた」、「いつも不機嫌だった」、「仕事が忙しそうで、家事は手抜きだった」などの理由で、家事が楽しいとは思えない。
家事には価値がないと思っている
自分の家族が母親のやる家事を「当たり前」という態度で感謝しない人たちで、それを見て育ったことで「家事には価値がない」と思っている。
あるいは、自分がやってきた家事を認められないうちに、価値を見出せなくなった。
家事をやらされていた
子供のころから強制的に家事をやらされていた、家事をやらないと怒られていた、などの経験がある。
世の中は、病気ややむを得ない事情以外の理由であれば、やりたくなくても、多少苦手でも、手抜きをしながらでもなんとか家事をこなしている人がほとんどだとは思いますが、それすらも放棄してしまう人もいるのが現実です。
どんな理由でも、子供が家事の一切を負うのは異常
しかし、理由が何であろうと、子供が親の代わりに家事や育児を担うのが異常事態であることに変わりはありません。
ですが子供は、そのような状況を受け入れてしまいます。
小学生・中学生は家事をどれぐらいやるもの?
では、一般的な小学生・中学生は、どのくらい家事をやっているのかを調べてみました。
小・中学生では、一番多いのが「食後に食器を片づける」で、「食事の準備」、「妹・弟の世話をする」と続きます。
しかし、中学2年生になると、お手伝いの頻度がぐっと減り、中学3年生ではさらに減ります。これは、部活動が忙しくなったり、高校受験に向けて勉強が忙しくなるからのようです。
そして、小・中学生でほとんどお手伝いをしないという人は、全体で見ると26%います。
そんな中、ヤングケアラーと言われる子供たちの中には、幼いきょうだいの世話をするために、自分の勉強時間や部活に充てる時間などを削っている子が多く、中には毎日、しかもほとんどの家事を親に代わってやっている小・中学生も。
これは見過ごしてはいけない問題だと思います。
高校生・大学生は家事をどれぐらいやるもの?
一般的には、高校生・大学生になると、家の手伝いをする割合はぐっと減ります。
通学に時間がかかるようになったり、勉強自体が難しくなり授業だけでは勉強時間が足りなくなるなどの理由や、部活動、アルバイトなどをするようになる人も出てくるためです。
一方でヤングケアラーはどうかというと、家で親の代わりに家事をする割合は減りますが、その代わりアルバイトをして家計を助けるようになる人が増えてくるようです。
同じアルバイトでも、家計のために働く高校生・大学生を「立派な若者」というだけで片づけてしまっていいのか?と思います。
このようなことを言うと、「家のお手伝いはして当たり前」という意見も聞こえてきそうですが、小・中・高校生や大学生が、勉強や部活動など、本来の学生らしい生活をあきらめて、“お手伝いの範囲を超えた家事”をしなければならない状況は「当たり前」と言っていいのでしょうか?
勉強以外にも、学生時代にしか学べないことはたくさんあります。
その機会すら奪われてしまうのは、やはり問題ではないでしょうか。
- “自分のことが自分でできるようになるために”
- “将来独り立ちしたときに困らないように”
その範囲内なら“親からの愛情”と受けとることもできますが、その範囲を超えた家事の負担は、逆に子供の“自由”や“時間”、“労働力”の搾取ではないか?と思います。
何より、子供が家事を「やって当たり前」であるならば、実際に手伝いをする子供はもっと多いはず。「当たり前」は、時代によっても、国によっても変わります。
現代の日本において、何が当たり前で、何を大切にするべきなのか?
少子高齢化が止まらない今、子供たちが自分の未来のために努力するのを、大人は邪魔すべきではないと、私は考えます。
親の老後を考えると家事ができないことが心配
あなたが、親に代わって家事やきょうだいの面倒をみていることで、やらなければいけない勉強ができないこと、睡眠時間が減っていることなどを、親に伝えたことはありますか?
もしも親が、その苦労に気づいていないようなら、率直に話してみてください。
直接話すことが難しければ、手紙に書いて読んでもらってもいいでしょう。
その結果、「知らなかった。申し訳なかった」と気づいてくれる親であれば、適切な支援を利用する・働き方を見直して家事を任せきりにしないなど、子供の負担を減らす努力をしてくれるでしょう。
ですが、残念ながらそうではない場合もあると思います。
その時、あなたは「やはり自分がやるしかない」と思いますか?だとしたら、それはいつ終わるのでしょう?
たとえば幼かったきょうだいが成長し、それぞれ独り立ちをしていった後、家事ができない・やらない親が残ったとしたら...
責任感の強いあなたは、親を見捨てることなどできず、面倒を見続けるかもしれません。そうしたら、あなた自身の人生はどうなるでしょう?
悲しいことですが、多くの場合、親は子供より先に亡くなります。そして、親が亡くなった後も、あなたの人生は続きます。
親が生きている間、“親のために”と自分の人生をかえりみずに尽くしたとしたら、子供であるあなたの、その先の人生には何が残っているでしょう。
昔は「親の老後の面倒を見るのは子供の役割」などと言われていたかもしれませんが、それはかつて日本人が二世帯、三世帯など、複数の家族で助け合いながら同居をしていた頃の話しです。
今や、介護の世界でも「家族だけでの介護は無理」というのが主流の考え方です。
核家族化が進み、場合によっては一組の夫婦(2人)が双方の両親(4人)の面倒をみなければいけないような状況の今、家族だけで親の面倒をみることすら、現実的ではないのです。
「自分が親の世話をしなければ」という思い込みや責任感を手放してください。
自分の人生や生活を優先的に考えること、支援や介護サービスを活用することを悪いことだと思わないでください。
現在は、介護サービスや支援を仕事として行っている人がたくさんいるのです。それらを利用することは、決して悪いことでも冷たいことでもないのです。
ただ...
そんな先の話しではなく、今現在、親に代わって家事をしていることで、学生らしい生活や、やらなければならない勉強が、やりたいことができなくて困っているのなら、今すぐに相談窓口に連絡をしてください。
相談窓口(厚生労働省HPより)
- 児童相談所相談専用ダイヤル (mhlw.go.jp)
- 「24時間子供SOSダイヤル」について:文部科学省 (mext.go.jp)
- 法務省:子どもの人権110番 (moj.go.jp)
- 子どもと家族の相談窓口(Eメール対応) (jamhsw.or.jp)
その他の相談先や情報検索サービス
- 生活困窮に関する相談について
(HP掲載用)自立相談支援機関窓口情報(令和2年05月25日現在) (mhlw.go.jp)
- 障がい福祉サービス等の情報について
- 障がい者や障がい児に対する介護等の相談について
お住いの市町村の「基幹相談支援センター」に問い合わせてください
- 介護サービス事業所の情報について
- 高齢者介護の相談について
当事者・元当事者同士の交流会、家族会など
- ふうせんの会
- 公益社団法人 全国精神保健福祉会連合会(みんなねっと)
その他、ヤングケアラーの相談を受け付けている窓口へのリンクが、厚生労働省HPの「ヤングケアラーについて」のページにありますので、参考にしてみてください。
- ヤングケアラーについて (mhlw.go.jp)
まとめ
親が家事をしないから、自分がやるしかない...そんな状況にいる小・中・高校生・大学生がいます。その理由はさまざまですが、未来ある若い人たちの学ぶ機会を奪っているとしたら、見過ごせない問題です。
- 親が家事をしない!押し付ける理由は? 親の病気や仕事が忙しいなど、その理由はさまざまかもしれません。ですが、中には「家事が苦手、やりたくない」という理由の場合も。どんな理由でも子供は親の代わりに家事を担うことを受け入れてしまいます。子どもにとって“母親”は絶対的な存在なのです。
- 親は家事がいっさいできない・苦手な理由は? “病気”、“仕事が忙しい”などの他、“家事が楽しいと思えない”、“家事には価値がないと思っている”、“家事をやらされていた”などの理由で家事を放棄してしまう人がいるのです。
- 小・中学生は家事をどれぐらいやるもの? 一般的には“お手伝い”の範囲です。しかも、中学生になれば部活動、受験勉強などのため、その割合は減っていきます。全体の1/4はお手伝いすらほとんどしないという調査結果もあります。しかしヤングケアラーは勉強の時間すら確保できない場合もあるのが実情です。
- 高校生・大学生は家事をどれぐらいやるもの? 一般的な高校生・大学生は、家の手伝いをする割合はそれまでよりぐっと減ります。通学時間が増えること、勉強が大変になることなどが理由でしょう。あるいはアルバイトが忙しい、という場合もあるようです。それは、ヤングケアラーが家計を助けるために行うアルバイトとは、かなり異なります。
- 親の老後を考えると家事ができないことが心配 親に代わって家事を行い、幼いきょうだいの世話をする苦労を、親は理解してくれていますか?話しても改善されないのなら、その生活は、親がこの世を去るまで続く可能性があります。できるだけ早く信頼できる相談先に相談して“あなた自身の人生”を大切にしてください。
家事労働は、つまらない作業ではありません。
一日も休むことが出来ない、地味ですが重要な作業ばかりです。
誰がやるにしろ、「やって当たり前」ではない―――
多くの場合、子供がそれを知るのは「親元を離れて一人暮らしを始めたとき」だと思っていました。
しかし、それよりずっと早い時期に、やらざるを得ない状況におかれる子供たちがいたことを知り、何とかしなければと強く思いました。
私自身親になってみて、“親の役目とは、わが子を一人前に育てあげ、独り立ちさせること”なのかな、と思っています。
もちろん、何らかの事情でそうできない親がいるのは承知しています。
親が、自分の身の回りの世話をわが子に頼まなければならない場合もあるでしょう。
ですがその場合は、「ありがとう」や「助かるよ」などの気持ちと態度が必要ですし、わが子の未来の可能性をつぶしてしまうことがないよう、支援や介護サービスを積極的に活用することは大切だと思います。
また、たとえ無意識でも、悪意はないとしても、“子供を支配・コントロールする親”が少しでも減ることを願わずにはいられません。
子供の人生は子供自身のもの。親のあやつり人形では、決してないのですから。