ある日突然電話がかかってきて、
「あなたの親が万引きをしました。すぐに来てください」
と言われたら...
まさか自分がそんな目に合うとは思っていない人がほとんどでしょう。
しかし、高齢者の犯罪で最も多いのは「万引き」なのです。
自分の親だけは別...は通用しないのです。
では、なぜ高齢者は「万引き」をしてしまうのでしょう?
それには、少子高齢化や未婚・非婚率の上昇、また独居老人の増加、認知症など、一見「万引き」とは関係のなさそうな問題がかかわっている可能性があります。
高齢者の万引きは、社会問題が生み出した現象と言えるかもしれません。
そして、万引きをしてしまった親を責めて、反省を促し、関係各所に謝罪をするだけでは解決しない問題でもあるのです。
特に「高齢者の万引き」には、疾患がかくれている可能性もあるのです。
そのとき家族ができること、やるべきことをご説明したいと思います。
そうすることで、親の残りの人生を穏やかに、充実したものにしてもらえたら、と思います。
高齢者が万引きをしてしまうのはなぜ?
現代日本において、高齢者が万引きをしてしまう理由として考えられるのは次の3つです。
経済的な問題
少子高齢化、未婚・非婚率の上昇などにより、高齢者だけの世帯が急増しています。収入源は年金だけ...となると、生活費は潤沢とは言えません。
実際に万引きでつかまる高齢者の8割は無職。
犯行動機は「お金を払いたくない」、「生活が苦しい」という経済的な問題が上がるそうです。
収入が乏しいまま老後の生活が長く続くかもしれない...そんな不安が万引きの原因になっていることは考えられます。
孤独
万引きをする高齢者の6割近くが独り暮らしであり、話し相手や困ったときの相談相手がいない人が半数近くにおよびます。
さまざまな理由で独居生活を送らざるを得ない高齢者は多く、周囲のサポートを得られず孤立し、自暴自棄になり破滅的行動(万引き)などの問題行動を起こしてしまう可能性はあります。
認知症
軽度の認知障害により、これまで当たり前にできていたことができなくなってしまう場合があります。
そのため、買い物の手順がわからなくなって、「支払いを済ませてから持ち帰る」ということができず、悪意なく「万引き」という結果になってしまう場合があります。
高齢者が万引きをしたら罪はどうなる?
万引きの罪は?
万引きは犯罪です。
例え高額商品でなくても、盗んだことに違いはありません。
繰り返していると逮捕・起訴され、実刑判決が下れば「窃盗罪」となり、10年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。
当然、盗んだものが高額であれば、刑罰が重くなる可能性は高くなります。
高齢者の万引きは罪に問われる?
高齢者が刑務所に行く原因の多くは「窃盗」です。
必ずしも窃盗=万引きではありませんが、人の物を盗む行為が原因で刑務所にいく高齢者は多いということです。
しかし、認知症が原因で起こす万引きなどの場合は、刑務所に入れることで解決にはならない場合があり、刑務所に入れずに医療機関につなぐための配慮をされる場合もあるようです。
自分の親が万引きで捕まったらどうする?
捕まったらまず何をするべき?謝罪の伝え方は?
まずは、いち早く現場にかけつけることが大切です。
そして、本人に反省を促すと同時に、家族としてもしっかりと謝罪の気持ちをつたえましょう。
そうすることで、反省の気持ちをもっていること、再犯の心配がないことなどを理解してもらえたら、警察への通報を思いとどまってもらえる場合もあるかもしれません。
逮捕されてしまった場合は...
本人に謝罪の手紙を書かせ、被害者に対して反省していることを伝えましょう。
真摯な気持ちが伝われば、不起訴処分になる場合もあります。
ただし、何度も繰り返し万引きをしている場合や、万引きに対する対応が厳しいお店などの場合は、そのような対応では済まないこともあるかもしれません。
その際は弁護士に相談するようにしましょう。
親に万引きをやめてもらうには?
万引きの理由が「経済的な問題」であったにしても、「孤独」であったにしても、あるいは「認知機能の問題」だったにしても、子どもに出来ることは、まずは「会って話しを聞いてあげる」ことです。
話しをする中で、経済的な問題が判明すれば、「可能な範囲で援助する」あるいは「行政のサポートにつなげる」などの手が打てます。
そうすることで将来への不安がなくなれば、万引きをすることはやめられるでしょう。
「孤独」が原因であれば、住まいが遠方でなければ、時々様子を見に行ってあげるとか、一緒に買い物に行く、食事に行くなどで気晴らしができたり、寂しさを減らし、衝動的な行動に走るのをやめられるかもしれません。
遠方に住んでいてなかなか様子を見にいけない場合は、同じような境遇の人が集う場所を見つけてあげる、やりがいや生きがいを感じられる居場所をつくるなど、社会から孤立させないよう近所の人々とのつながりを作ってあげることも有効です。
「認知症」が原因である場合は、家の中の様子や本人の言動などで気づくことができるでしょう。
もしも「認知症かな?」と思ったら、医療機関などの専門家に相談することで、適切な対処方法を知ることができるでしょう。
頭ごなしに叱ったり注意することは、かえって孤独を深めたり自暴自棄をまねきかねず、逆効果になる可能性があるのでおすすめしません。
万引きが癖になっている親の治療法は?
万引きの治療法は?
万引きの理由が経済的な問題や孤独、認知機能を原因とするものではなく、お金を持っているのに万引きしてしまうとか、何度も繰り返してしまうような場合は、精神的な疾患の可能性があります。
万引きをすることで満足感や安心感を得る「クレプトマニア(窃盗症、病的窃盗)」という精神障害があります。
これはアルコール依存症などの依存症と同様に、自分の意思でコントロールができない障害です。
この場合は説得しても罰を受けても改善されることはありません。専門の医療機関で治療を受ける必要があります。
インターネットで「クレプトマニア」を検索すると、専門の医療機関や自助グループなどが見つけられます。
行政や民間機関の相談先は?行政のサポートは?治療費はどれぐらいかかる?
昨今はクレプトマニア専門の医療機関が増えてきています。
通える範囲にない場合はオンラインでの治療が可能な専門病院もありますので、相談してみることをおすすめします。
また、各都道府県・政令指定都市には「精神保健福祉センター」が設置されています。
精神保険福祉センターは、こころの病気に関する相談を受け、アドバイスや医療機関・支援機関についての情報提供などを行っています。
それぞれのセンターごとにできることが異なるようですので、最寄りのセンターに問い合わせて、特徴を確認してみましょう。
近くにセンターがない場合は、保健所や保健センターで相談してみましょう。
治療費については、他の精神科の治療と同様に、公的医療保険のほか、各種医療費助成制度(例:自立支援医療(精神通院医療))を利用し、軽減することが可能です。
生活保護による医療費給付が可能な場合もあります。
万引き依存の親に病院をすすめる言い方やタイミングは?
万引き依存症の親にカウンセリングや治療をすすめる伝え方は?タイミングは?逆切れされてしまった場合は?
クレプトマニアは精神疾患であると同時に、犯罪者として逮捕されてしまう可能性が常につきまといます。
治療を先延ばしにすれば逮捕回数が増え、普通の社会生活に戻るのが難しくなります。本人の同意のあるなしに関わらず、一刻も早く治療を開始する必要があります。
しかし、本人が受診をしぶる場合は、まずは家族だけでも受診・相談することができます。
そうすることで、本人の受診につなげることもできますし、家族が本人に対する接し方を学ぶことで、症状が改善されることも期待できます。
まとめ
「親が万引きをした」...そんな連絡を受けてしまったら、どうしたらいいのか?
関係各所に謝罪してまわり、親を責めたり反省をうながしたりするだけでは根本的な解決にはならない場合があります。その根本的な原因に目を向け、親の残りの人生を穏やかに、充実したものにしてもらう方法をお伝えします。
- 高齢者が万引きをしてしまうのはなぜ? 現代日本において考えられる理由は3つ。<経済的な問題>、<孤独>、<認知症>。このいずれかであることがほとんどです。まずは原因を探るために、親の話しを聞いてみましょう。
- 高齢者が万引きをしたら罪はどうなる? 万引きは犯罪です。最悪の場合は逮捕・起訴され実刑判決が下る場合もあります。ただし、認知症が原因である場合は医療機関へつなげられることもあります。
- 自分の親が万引きで捕まったらどうする? まずはいち早くかけつけ、本人と共に謝罪をすることが大切。警察への通報を思いとどまってもらえる可能性もあります。逮捕されてしまったとしても、謝罪の気持ちを伝える努力はとても大切です。そして、万引きを繰り返さないために原因を探り、解決のための手を打ちましょう。
- 万引きが癖になっている親の治療法は? 万引きの理由が「クレプトマニア」という精神疾患である場合があります。その場合は専門の医療機関での治療が必要ですが、その他の依存症治療と同様、公的医療保険や医療費助成制度を利用することができます。
- 万引き依存の親に病院をすすめる言い方やタイミングは? 治療を先延ばしにすることで万引きを繰り返してしまえば、普通の社会生活に戻ることが難しくなります。一刻も早く治療を開始する必要がありますが、本人が受診をしぶる場合は、まずは家族が受診・相談することでも症状の改善につながります。
高齢の親が万引きをしてしまった...
それは精神的にも社会的にも、とてもショックなことです。子どもとしては、悲しい気持ちになってしまいます。
ですが、もしかしたら親は親で、わが子には相談できない...と悩みを抱えて苦しんだ結果なのかもしれません。
あるいは、人間は、年をとると徐々に子どもに戻っていく、という話しもあります。
自分の感情や欲求にブレーキが利かなくなるその姿は、まるで小さな子どものように見え、わが親のそんな姿を見るとき、子どもとしては、悲しいような情けないような、複雑な心境になるかもしれません。
しかし、かつて自分が幼かったころ、わがままに付き合ってくれたり、未熟な言動を見守ってくれた親に、今度は自分がお返しをする番が来たのかもしれない...
そう思って優しい気持ちで見守ってあげられたらいいのではないかな?と思います。