「うつ病」にかかる人は、近年増加の一途をたどっています。
ある調査によれば、日本人の16人にひとりが一生涯のうちにうつ病を経験するともいわれ、もはや誰がかかってもおかしくない病気なのです。
ですから、自分の身近な人が「うつ病」と診断される可能性は「大いにある」のが現代です。
あるいはすでに身近な人が「うつ病」と診断された方もいらっしゃるかもしれません...
身近な人が「うつ病」と診断されると、“どんなふうに接したらいいのか?”と、戸惑うと思います。
ひと昔前のように“甘えだ”とか“心が弱い”などという間違った見かたが減ってきたのはよいことだと思いますが、最近は逆に、“励ましすぎてはいけない”、“気遣いすぎてもいけない”といわれ、まさに「腫れ物に触るように」接するよりほかないのか?と思うような情報ばかりです。
中でも、遠くに住んでいる義母がうつ病にかかってしまった...という方は、接し方を含めて“どうしたらいいのか”途方に暮れておられるかもしれません。
でも、自分や家族だけで抱え込まなくていいのです。むしろ積極的に公的支援サービスを活用することをおすすめします。
その理由と方法をご説明します。ぜひ参考にしてみてください。
義母がうつ病になってしまった場合の接し方は?
まずは「冷静」に
義母が「うつ病」になったと聞いたら、大変驚くでしょうし、動揺すると思います。
ですが、まずは落ち着いて。「冷静になること」が大切です。
- 何が原因なんだろう?
- このまま遠く離れていて大丈夫だろうか?
- 私たちが仕事を辞めてそばに行くべきではないだろうか?
いろいろと頭を駆け巡ってしまうと思いますが、性急な判断は禁物です。
大切なのは「共感」
まずはこれまで通りに接し、「つらい」、「苦しい」などの訴えがあったときには、“そんなことない”、“大丈夫だよ”などと否定するのではなく、“つらいよね”、“苦しいよね”と本人の気持ちを繰り返し、共感していることを伝えるようにしてみましょう。
また、義母のつらい気持ちの告白に対して、“そんなこと言わないで”と言ってしまうと、ご本人は本音を吐き出す場を失ってしまいます。
つらい気持ちや今の苦しさを吐き出せるよう、聞き役に徹しましょう。
また、“運動したらいいんじゃない?”、“趣味の集まりに行ってみれば?”など、積極的な解決策の提案も、逆にご本人を追いつめることになる場合があります。
本人も受け入れるのが辛いはずの「現状」ですから、むしろ「そのままでもいいんだよ?」と周りが肯定してあげることで安心させてあげるほうがよいのです。
もしも、“他人(嫁)のあなたにはわからない”などと言われたら?
複雑な気持ちになると思いますが、「うつ病」は脳のダメージを伴う病気です。正常な判断ができなくなっているせいもあると受け止め、一旦やりとりをお休みしましょう。
そのまま会話を続けることはお互いにとってプラスになりません。
義母の病状がどの程度なのかなど、判断に迷ったら、診断を受けたお医者さんや専門家からアドバイスをもらいましょう。
うつ病になりやすい義母の性格や特徴は?
「うつ病」になりやすい典型的な性格の傾向は「メランコリー親和型」と呼ばれ、以下のような特徴があります。
メランコリー親和型と呼ばれる性格傾向の特徴
- 真面目で責任感が強い
- 几帳面で秩序を重んじる
- 周囲に気を遣いすぎる
- 仕事が出来るタイプが多い
- 周りからの評価が高く頼りにされる
- 柔軟性に欠ける
- 他人の評価が気になる
- すべて自分の責任と考えがち
- 一人でなんでも抱え込もうとする
いかがでしょう?義母だけでなく、もしかしたらあなた自身も心当たりがあるかもしれません。
もちろん、これに該当するからといってすべてが「うつ病」になるという話しではありませんが、「うつ病」になりやすい傾向がある、ということは、知っておいた方がいいと思います。
うつ病になりやすい人は、真面目で几帳面で、周りへの気配りもできる、とてもいい人が多いのです。
でも...ときに「完璧」を目指してしまう。頑張りすぎてしまう人でもあるのです。
そもそもうつ病とは?適応障害との違いは?
「うつ病」とは?
「失敗して落ち込む」、「やる気がぜんぜん起きない」などは、誰でも経験したことがあると思います。しかし2~3日もすれば自然に回復したり、「好きなものを食べる」、「気晴らしをする」などで解消できるのではないでしょうか?
ところが、「うつ病」というのは、そのような気分の落ち込み(抑うつ状態)が2週間以上続き、何をやっても、どんなにいいことがあっても、決して気分が晴れないといいます。
「うつ病」というのは、さまざまなストレスが重なることで脳がダメージを受け、正常な判断ができなくなる病気でもあるのです。
また、ものの見かたが否定的になり、自己肯定感が低くなり、睡眠障害など、体にも変調が現れます。
「適応障害」とは
「うつ病」とよく似た症状の病気に「適応障害」があります。
「適応障害」とは、ある特定の場所や状況が自分にとってストレスになり、気分や行動に症状が現れるものです。
具体的には、ある一定の場所や状況に身をおくと、憂うつな気分になる、不安感が強まる、焦る、やる気がなくなる、イライラする、頭痛、めまい、動悸、だるさなどが現れるが、その場所や状況から離れると、症状はなくなることが多いといいます。
「うつ病」と「適応障害」の違い
1.行動
「適応障害」の場合は、大きな声を出す、怒る、泣くなど、激しい反応が現れることがあるが、「うつ病」ではあまり見られない。典型的な「うつ病」は自分を責めてしまいがち。
2.ストレスから離れた時
「適応障害」の場合は、ストレスを感じる場所や状況から離れると症状が緩和されるが、「うつ病」の場合は、ストレスから離れても抑うつ状態が続く。
このように、「うつ病」と「適応障害」は違う病気ですが、「適応障害」から「うつ病」へ移行するケースもあるので注意が必要です。
いわば「適応障害」は、「うつ病予備軍」ともいえるということです。
年齢や性別、生活環境、運動習慣は関係がある?
年齢
日本では、若年層と中高年でうつ病が多いとされていますが、高齢になれば、配偶者との死別や社会的に孤立するなど、うつ病のきっかけになる出来事が起こります。
年をとったから大丈夫、ということはありません。
性別
「女性は男性の2倍うつ病になりやすい」と言われています。ホルモンの関係でそうなると言われていますが、女性の方が積極的に受診するから、という見かたもあるようです。
生活環境
急激な生活環境の変化がきっかけになり、うつ病を発症することはあるようです。
運動習慣
週に1時間程度のウォーキングがうつ病予防になるという研究結果があります。適度な運動はセロトニンの分泌を促すため、こころの安定につながるからではないかと言われています。
ただし、無理に習慣化することやからだに負荷をかけすぎることは、逆効果になる可能性があるので注意が必要です。
いずれの場合も、「おかしいな?」、「これまでと違うな?」と本人や周りが気づいたら、早めに専門家に相談することが大切です。
遠方に住んでいる義母がうつ病になった場合のサポートは?
遠くに住んでいる家族、特に義母をサポートするために、子どもである夫やその家族が自分の生活を犠牲にするのは最善の方法ではありません。
「夫か自分が仕事を辞めて義母を支えたい」と思ったとしても、それはおすすめしません。
なぜなら、何年か先、義母のサポートを終えた時、今度は夫や自分を支えるものが何もない状態になってしまいかねないからです。
また、「うつ病」を家族や身内だけで支えようと頑張っても、3か月が限界だそう。これは介護のプロの言葉です。
公的支援サービスの活用がおすすめ
「うつ病」は介護保険サービスの給付対象となります。公的支援サービスを積極的に活用しましょう。
公的支援サービスを活用し、短期間で回復した実例もあります。
「自分の母親なのだから」、「夫の母親なのだから」と義務感で抱え込むことで、逆に自分や家族の心身を消耗することになっては、誰も幸せにはなれません。
公的支援サービスについては、地域によりサービス内容や名称が異なる場合があるので、市町村の公的保険制度の窓口で確認してみてください。
公的支援サービスの例
「自立支援医療」
精神科の病院又は診療所に入院しないで行われる治療(外来、投薬、デイケア、訪問看護等)の自己負担額を軽減できる制度
「訪問看護」
加齢に伴う病気や機能低下に対応して、居宅において自立した日常生活を送れるよう要介護者の居宅を訪問して行うサービス
「居宅支援」
障害の有無に関わりなく基本的人権を享有する個人として日常生活や社会生活を営めるよう、障害者の在宅生活を支援する訪問系の介護サービス
「ガイドヘルパー」
主に視覚障がいや全身性障がい、知的・精神障がいによって、一人で外出することが困難な方の移動を介助するサービス
うつ病は治療できる?老後が心配
「うつ病」の治療は、大きく2つの柱からなります。
ひとつは<こころを休める>こと。もうひとつは<薬の服用>です。
処方された薬を決められたように飲むことと並行して、ストレスになるような事がらを減らし、こころをゆっくり休ませてあげることが重要です。
そうすることで、再び同じようなストレスを受けても、同じように抑うつ状態になることを防げます。
しかし、治療を開始しても、すぐに明らかな改善がみられるわけではありません。焦らず一歩ずつ、また、時には後戻りすることもあるかもしれませんが、それもよくあることです。
それすらもあまり重く受け止めず、回復のために必要な道程と思いましょう。
「うつ病」の治療には、お医者さんや薬の力も絶大ですが、「うつ病」になるほどたくさんの事がらを抱え込んで苦しんでいた自分を解放してあげることが何よりも大切。
自分を助けてあげられるのは、最後は自分しかいないのです。
また、「治したい(治ってほしい)」、「元通りになりたい(なってほしい)」という焦りが、逆に本人を追いつめる場合もあります。
完璧に元通りになることを目標とせず、「一番ひどい時より、よくなった」ことを喜ぶことも大切です。
義母がうつ病にならないような予防策は?
「うつ病」になりやすい性格の傾向はわかっているので、その逆を目指すことが「うつ病予防」になります。
- あまり責任を感じないようにする
- きちんとしていなくても良しとする
- 人の評価を気にしない
- なんでも自分のせいと思わない
- 周りの人に頼る、甘える
- 荷が重いことは勇気をもって断る
- ダメな自分を認め、許す
...「それが出来れば苦労はしない」という声が聞こえてきそうですね?
でも、「うつ病」になりやすい性格の人がそれを予防するには、少しずつでもいいので、これらを意識していくことが大切です。
特に、義母の「うつ病」を予防するためには、身近な家族や子どもからの声かけがとても有効です。
- “お義母さん、今日は外食にしましょうよ”
- “最近のお惣菜はヘルシーで美味しいですよ”
- “掃除なんて週に1回くらいでも大丈夫”
- “庭の草取りは、便利屋さんに頼んでやってもらいましょうよ”
などなど。
誰かに「がんばらなくてもいいんだよ?」と言われることが、自分に対する厳しいルールを緩めるきっかけになる人もいます。
まとめ
うつ病になった義母への接し方、とくに、遠方に住んでいる場合の対処法をまとめます。
- 遠くに住んでいる義母が「うつ病」と診断されたとき、まずは「冷静」に。そして大切なのは「共感」。「つらい」、「苦しい」などの訴えがあったら、励ましたり否定するのではなく“ついらいよね”、“苦しいよね”など共感してあげて。
- うつ病になりやすい義母の性格や特徴は、「メランコリー親和型」。真面目で几帳面。周りへの気配りもできる、とてもいい人。でも「完璧」を目指してしまう。頑張りすぎてしまうのです。
- そもそもうつ病とは?適応障害との違いは? 「適応障害」は、ストレスの元になる場所や状況から離れると症状が緩和されるが、「うつ病」はそれでも症状が続きます。違う病気ではあるけれど、「適応障害」から「うつ病」へ移行するケースもあり、注意が必要です。
- 遠方に住んでいる義母がうつ病になった場合、子どもである夫やその家族が自分の生活を犠牲にするのは最善の方法ではありません。家族だけでの介護は3か月が限界。積極的に「公的支援サービス」を活用しましょう。「うつ病」は介護保険サービスの給付対象です。
- うつ病の治療は、<こころを休める>ことと<薬の服用>の二本柱。しかし、治療を開始しても、すぐに明らかな改善がみられるわけではありません。焦りはかえって回復の妨げになります。「一番ひどかった時より、よくなった」ことを喜びましょう。
- 義母がうつ病にならないような予防策は? 真面目で責任感の強い、人に頼れない義母、頼まれたら断れない義母に、「がんばらなくてもいいんだよ?」と伝えてあげましょう。自分で自分のダメなところを認めて許すことが、なによりの予防策になります。
誰もが「うつ病」になるかもしれない現代です。
甘えているから「うつ病」になるわけではありません。
心が弱いから「うつ病」になるのでもありません。
真面目で頑張り屋、問題が起きれば「自分のせいかな?」と内省し、頼まれたら断れない...そんな「いい人」ほど「うつ病」になりやすいのです。
人間だれしも頑張り続けることはできません。張り詰めた糸は切れやすく、かたい木は折れやすいのです。
だめな自分、出来ない自分を許してあげましょう。
そうすることで自分も救われますし、他人の弱さや失敗にも、やさしい気持ちで接することができるようになるでしょう。
そうすればきっと、家族も、地域社会も、世界もきっと平和でまあるくなるでしょう。
「うつ病」に苦しむ人やその家族が、ひとりでも減りますように...